英雄包囲網

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後編


夜更けにライはふと目を覚ました。
腹が減ったから、喉が渇いたからと色々と理由はあれど
一番大きいのは感じる妙な違和感だった。
「おい、アイク起きろって」
深い眠りに入りこんだアイクの背中を揺らすが一度目は起きずに迷惑そうに
寝返りをうつだけだった。
しつこく揺らすとうっすらと目を開けてこれまた不機嫌そうにつぶやいた。
「何なんだ?」
「外がヤバイ感じなんだよ、匂うんだ」

夜襲かとアイクの頭もはっきりと覚醒した、顔つきが変わり
半身が裸体のまま天蓋の外へと様子を見に行こうとする。
「待てって」
ライは慌ててアイクを引っ張り外に行くのを止めた。

「確かめてくるだけだ」
「駄目だ、これは鉄の匂いや敵の匂いじゃないんだぞ」
「じゃあ何だ?」

無理やり起こされたアイクはむすっとした顔でライを軽く睨む。
ライはかなり言いにくそうにぼそっとつぶやいた。

「女の甘い匂い」
「女?」
「色んなたくさんのベオクの女達の匂いだ」
アイクとライは顔をはたと見合わせる。
「俺は女に呪われているのか」
女は苦手だが、本当に嫌いになりそうだな…自分の寝所にまで押しかけようとは
アイクは身震いする思いだった。

「やっぱり俺は女達に命を狙われているのかもしれん」
ヤケクソ気味に言うアイクにんなわけないじゃんとライは言う。
「バーカ、よーく考えてみな、原因は俺達にあるんだよ」
「何故、ライも関係あるのか」
「そうだよ、この状況でまだ気づかないのか?」

アイクはじろっとライの顔を見た、半身が裸の男と自分のためにあつらえた
天蓋の中で二人きり。
「ああ!!」
「そう!わかったか?」
「これなのかこいつか」

アイクは初めて女性陣達の付け狙われる理由がわかった、
どこまで知られている?!
まさか相手がライという事は気づかれていないだろう。
もしそうなら今頃、乗り込まれるか直接的に攻めてくるだろうに

「ターゲットはアイク お前だよ… きっと妙な噂がたっているんだろ
俺との関係はまだバレちゃいないだろうけど」
「今は女神相手に戦時中だぞ、何をふざけているんだ女達は」
アイクは信じられんとばかり舌打ちした。
「ふざけちゃいないかも、ミストもいるんだぜ」
「ミストもか」

アイクとライが四方八方包囲されている中、ミストは兄を心配していた。
正直ミストがそうなのかと予感せずにいられなかった出来事はいくつかあった。
知りたい気持ちがないわけじゃない
(ごめんね…お兄ちゃん こんな事になっちゃって)


「ラグズは何か知っているのかしら?
こんな楽しいお祭り見逃しちゃうなんてね」
ララベルはすっかり楽しんでしまっていた、
自分になびかない勇者様にかわいい復讐のつもりなのだ。
「たくさん…食べ物持ってきて良かった…」
イレースは座り込んでおいしそうに食べ物をもぐもぐと口に運んでいた。
皆、アイクの黒を決めつけているのか、相手は誰なのか誰なのかそればかりを話あっている。
あたりは興奮に包まれていくのだった。

頂でレテはその異常な様子をはらはらと心配そうに見守っていた。
(ライのやつ、もっと上手くやればいいのに)

「さてと行ってくるか」
アイクが腰を上げ出口に向かおうとする。
「いずれバレる事だろ、俺は自分が悪い事をしているつもりはない
俺が誰を想おうが惚れようがそれは自由だ
どう思われようがかまわん」
「アイク…いいのか」
「鷹王とリュシオンのように堂々としていたほうが
騒ぎ立てられんだろ」
ライが心配そうに外の様子に耳をそばたてた、今、出て行けば混乱は必至

「それは困ります、志気に関わりますから」
少しトーンの高い声が響きわたるとアイクとライはぎょっと振り返った。
どこから出てきたのかセネリオが居る!
「僕が何とかしますから、二人は今は外に出ないでください」

「感謝!って今出て行ったら参謀殿とアイクが疑われるんじゃ」
ライが慌ててセネリオに言ったが、挑発的な瞳を光らせると
「そうですね、そちらの方が事態が上手くまとまるかもしれません」
「く!」

ライを相手にもせずにセネリオは涼しい顔でアイクを見た。
「頼むセネリオ」
「了解ですアイク」
そしてライに対してはやっぱり冷たい態度でこほんと咳払いする。
「これに懲りたらしつこく夜這いするの止めていただきたいのですが」
「はいはい〜」

気がついたらセネリオは外に出て行ってしまった、
一体どうやって忍びこんだのだろう。
「なあアイク?セネリオはいつからここに居たんだろうな」
「…………考えるのは良そう」

じっと望遠鏡を覗きこんでいたララベルの背後から声かかる。
「ララベルさん、このような所で何をなさっているのですか」
「え?!セネリオじゃない どうしたの?」
「アイクに精神的被害を与えているとは本当だったんですね
寝所に侵入とはストーカー的行為じゃないですか」
「え?何のことかしら」
慌てるララベルに対してセネリオは涼しい顔で言い放つ、
手にしていた書物を広げると
「軍の規約に違反しているとの声もあがっています
僕の力で何とかなりますがどうしましょうか」
「セネリオちゃん…」

「美しい皆さんがこのような事をなさるわけないですよね」
にこりとセネリオが冷たく微笑む。
「ええ、ちょっと皆で夜中のピクニックをしていただけ帰りましょ」
ぞろぞろと撤退する女性軍達一同、セネリオの笑顔に見送られた。

「アイクがいつもあなた達の事を褒めてましたよ
この軍には美人が多いと」
その場に居た者がそわそわと顔を見合わせた、私の事かしらと。


こうして朝日が昇り、周囲に日が差してくると
アイクの身辺を脅かす者はいなくなった。
あくびをしながらアイクはやっと天蓋の外へと出ることができた。
「とんでもない目にあったな」
ライも伸びをしながら、まったくと同意した。

「なあアイク…俺達は間違っちまっているんだろうか」
「どこが間違っているんだ」
「いや…世間に認められねぇことしてんのかなって」
だからといってアイクと離れることは今のライには考えらない事だった。
ライが暗い顔をしているのでアイクは背後にそろっと近づいて垂れている尻尾を掴んだ。
「にゃっ!!! 尻尾は止めろって敏感なんだぜ」

「ラグズとかベオクとか性別とか種族とか何故人は分けられなきゃいけないんだ
俺は俺だ、何者でもないし、俺のやっている事は正しいと思っている それだけだ」
「そっか…お前は本当すごいやつだよ」
男でも惚れるほどにな、俺まで本気にさせちまって
ライは目を細めた。

「それにしても色々とめんどくさくてかなわん
いっそどこか遠い国へ行ったほうがいいかもな」
「アイク、それ冗談か?」
「本気だったらどうする」
日に照らされたアイクのまっすぐな表情にライはちょっと驚いたがうなずき答える。
「それもいいかもな」

「セネリオも一緒になるがいいか」
ずるっと力が抜けそうになるがライは笑ってしまった。
「ははははっそれにしても参謀殿はどうやったんだろうな
今度、改めて礼をしないとな〜」

セネリオのおかげでその日から女達は関心はアイクから離れていった。
しかし一人だけ真実を知ってしまった者がいたりして…

(見ちゃった…ライさんだったんだ)
この事はミストの秘密になったのだが、真実を知っていてあえて口に出さないのは
軍の中には大勢居たりするのだった。


おしまい


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