ハルカとナツキ

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1章


南春香という名前はナツキがやんちゃと言われてた頃から耳にした事があった。
その頃の同級生の間では高嶺の花、誰もが春香に近づけもしない、
声なんぞかけられるわけがないというより始めからあきらめていた。
美人であり、優しく気高く、初代番長である
ナツキもその一人、年上の春香と自分は遠い存在であると思っていた。
女性とは未知の生物だと考えていたのだ。

しかし、それが一変したのは、妹の冬馬が南家に出入りするようになってから。
「ナツキ君いる?」
教室のドア越しに聞き覚えのある声がする、ナツキの胸の中がドキリとざわついた。
ナツキ!とクラスメートに呼ばれ振り替えると、手を小さく振っている上級生の春香の姿があった。


「ウッス ハルカ先輩」
春香と一緒に廊下に出ると何となく上機嫌な彼女が笑っていた。
会うごとに胸の中のざわつきが大きくなってくる、
「何すか」

「うーんとね、これ渡そうと思って」
春香が持ってきたのは一冊の雑誌だった、よく見ると料理本、お弁当の作り方が記してある。
「この前、冬馬がね」

冬馬がこの前 南家で愚痴ったのが運動会の話だったらしい。
もちろん兄弟全員で冬馬のためにゴザをひいて昼ご飯を食べる事になったのだが
『ナツキの努力を認めるけど、いつもからあげとおにぎりだけなんだ〜』
『ウチの春香姉様のお弁当はおいしいぞ、ウィンナーがたこさんだぞ』
『たこさんウィンナー うぉぉー!うらやましいぞ 千秋ぃ』

と言うことがあったらしい。
またもや南家で愚痴られてしまった…のか
「どっ努力するッス」
握りこぶしをつくり春香にリベンジを誓う、お弁当は難しいものねと春香は同情的に微笑んだ。

「だからこの本を貸してあげようと思って」
「キャラ弁…すか」
「そう、キャラ弁」

がんばってねと南春香は大人なお姉さんの笑みを残して去っていった。

放課後におとなしくキャラ弁の本を読んでいたナツキだったが
(うぉぉ!!男としてウィンナーをたこになんて恥ずかしくて出来るか)
眉間に皺を寄せるナツキの前に現れたのは保坂は相変わらず空気も読めず
「オレの弁当に足りないものとは」
と質問、ナツキは適当に「キャラ弁ッス」と答えてしまったらしい。

ナツキが弁当を作る機会というのは意外に早く訪れる事になる。
家に帰ったナツキの前にめずらしくおねだり顔のトウマが寄って来た。
「何だ?こづかいか?それは無理な相談だ」
「それもあるけど!お願いがあるんだナツキ」

手をぶんぶん振り回しておねだりしてくるトウマを軽く右手で制しながらナツキは
何だ言ってみろと聞いてみた。

また南家での話 千秋と『藤山どんどこ』というジェットコースターはすごいらしい
という話題で盛り上がり、たまらなく『何でもワールド』に行きたくなったらしい。
しかし、春香に保護者引率を頼んだ所、用があるからと断られたらしい。
「カナじゃ心配だから駄目だって春香が許してくれなくてさぁ
なぁナツキ 一緒に行ってくれないかな!」
「遊園地に連れてけだと、ハルカ先輩が都合のいい日に行けばいいじゃねぇか」
「今がいいんだよ!なぁナツキ! ナツキを男と見こんで頼んでんだよ!」

「……………」
トウマはナツキの胸の中めがけて頭突きをしてきた、それが人にものを頼む態度かぁ!と
思ったがオレを男と見こむとか、その言葉はナツキの心を動かす。
思えばこんなに真剣にお願いされるのは久しぶりだ。
いつも「あのさぁ…なんでもない」と渇いた笑いで終了だったのだし。
「いいぞ」とナツキは妹達の引率を引き受ける事にしたのだった。


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