パンドラズINホープ

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2章


『仕事を請けるというのは君のこと?』
私は驚いた体に電流が走ったように、その声に耳を走らせた。
フェルナンさんは背中を向けたまま仲間と談笑しているようだった、
それでもさっきのメッセージは私に向けられたスペルだった。
この言葉を聞こえた者は誰もいないらしく、周りは気が付かない
『はい!あの!これは高速言語使ってます?』
『そうだね、君にだけに聞こえるように使ってる』

すっとまた入ってくる
(速い!)
『君も使えるみたいだ』
『すみません、私のゆっくりで…』

誰にも速すぎてスペルを追いきれない、
高速言語は術者としてこれを覚えないとパスが受けられないものだった、
術はどれも本数十頁に及ぶ長いものが多く
唱えるためにいかに速く正確に唱えるかが重要になる。
フェルナンデスさんがスペルエンペラーと言われる由縁でもあった。

酒場のガヤも聞こえなくなり、フェルナンデスさんと私だけの空間になる。
私の力ではない、彼の力の一つ
『それだけ使えれば十分じゃないか』
私は首をブンブン振るとマスターがいぶかしげに見た。
『そちらに行く』

「え?!」
フェルナンデスさんがこちらに向かって歩いてくる、私はマスターに助けを求めてみたけど
その間に心臓の音が聞こえそうなくらい近くに来ていた。
最初に思った事は思ったより若い人なんだという事、スペルマガジンに載っていた
情報は23歳くらいだったような。
それとやっぱりかっこいい!
緊張と動揺とときめきで足がガクガクと震えそうになってしまう。

長身の背を少しかがめて小首をかしげたフェルナンは私に向かって言った。
「この子の事?」
「そうだよ、この子まだ新米らしいんだけどヒーラー認定通っているみたいだし
例のリターンも使えるらしいぞ」

「ふーん」
フェルナンデスさんは少し考えこむようなしぐさで私を見た。
「わっ私はリーベル=マクガイアと申します!まだ卒業したてで
実践経験も乏しいですけどよろしくお願いします」

そう言って深ぶかとお辞儀をしたけれど、心の中では絶対断られると思っていた。
彼ほどの術者は近づくだけで相手の能力、魔法力を感じる事が出来る、
私のお粗末な魔法力なんて隠したってバレちゃうから。
高速言語を使った事もすでにテストされていたのかも。
そう思うと見つめられている事がとても恥ずかしくて羞恥に顔が赤くなった。
一瞬チャンスだと思ったのがおこがましくて、フェルナンデスさんに余計な手間を取らしている
事が申し訳なかった。
それだけ彼は雲の上の人だったのだ。

「マスター」
フェルナンデスさんがマスターに声をかけた、私はぎゅっと目をつぶった。
「いいよ」
「へ?」
思わずすっとんきょうな声をあげてしまった。

「リーベル、君の力を見せてもらった
確かにまだ青くて未熟なオーラだけど、気に入った」
「本当にいいんですか?」
「ああ」

『君みたいな勉強家タイプの術者は嫌いじゃない
リターンの術も覚えているんだろう』

また高速言語!私は思わず耳に手をあてた。

『覚えているはいるのですが…』

「では、問題はない」
涼しい顔で言うフェルナンデスさんに唖然としてしまった。
こんな短い間に私が本の虫で勉強大好きな所まで見抜かれてしまうなんて
本当はもっと別の事も知られてしまったかも

「良かったじゃないかお嬢ちゃん、いやあ、この間まで何人か人を紹介したんだけど
どの術者も辞めてしまってな、フェルナンデスにこれから直接面接するって言われてたわけさ」
やっぱりこの仕事、厳しいんだ
「無理もない、リーベル 君はどうする?」

私の力をいいと言ってくれた彼の期待を裏切りたくない
仕事がほしい、経験を身につけたいし、
この人の役に立てたら

私がついじっとフェルナンデスさんを見上げてしまうと目を細めて笑い返してくれた。
どきっと胸の音がなってしまう。

「よろしくお願いします!」

「よし決まりだ」
フェルナンデスさんは私に手を差し出すと私はありがたいものでも拝むように
両手で必死に握り返してしまった。
彼はくすくすと笑うとそれじゃと言って仲間の元へと戻っていった。

これは夢だ夢に違いないわ

私は数日の間、そう思わずにはいられなかった。

これが私がチーム・フェルナンに入るきっかけ。
どうして白と黒のスペルを総ていた彼がホワイトスペルの術者を
探さなければいけなかったのか、その答えを知るのはまだずっと先の事だった。


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