恋の代償

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  告白  

あの・・俺と付き合ってくれ!」
「はい、私でよろしければ・・。」
ギィの不器用すぎる告白に、頬を染めてプリシラはうなずいた。
OKをもらえた事が信じられなくてギィは何度も何度も確めたが、
答えはYES。

「うわっ。」
ギィは喜びのあまり顔を紅潮させた。そしてプリシラの細い手を取り声高に宣言。
「よろしくな!俺絶対、あんたの事幸せにするから!」
ひたむきなギィの眼差し、プリシラもこのサカの剣士ギィをずっと憎からず想っていた。
天にも昇る気持ちとはこの事なのだろう。


「大丈夫ですか!」
ギィが肩をケガをしてしまった事に気づいたプリシラは、急いで馬を走らせた。
くるくるっと杖をまわすと、ライブの光がギィの左肩を包んでいく。
「サンキュー!」
ギィは、肩をぶんぶん振ると、にかっとプリシラに笑いかけた。
プリシラは、ほっと胸をなでおろした。
「俺も、ケガしているんだけど。」
マシューが頭から血を流しながら二人の間を割って入った。
プリシラは、慌ててライブの杖をマシューにかけた。
「これで、大丈夫です。」
マシューの頭に手早く包帯を巻くと、マシューは、ちょこっと頭を下げて礼を言った。
「ギィ、彼女借りちゃって悪いな。」
「こんな所までわざわざ来なくても、あっちにセーラが暇ぶっこいているだろ。」
ギィは、戦場のさなかやっと会えたプリシラとの時間を邪魔されて顔をふくらませた。
「じゃあ、私はこれでっ。」
気恥ずかしくなってしまったプリシラは、馬をひるがえし去ってしまった。
「あっプリシラ!」

ギィが自分の事を恨めしそうに睨むのを相手にもせず、マシューは愉快そうにへらへら笑った。
付き合えたと言っても幾度かデートを重ねただけの、まだ恋人というのも
おこがましい感じのするギィとプリシラだった。
それでもギィは、優しくてかわいい彼女の事を思うといつもの倍は戦える闘志が湧くのだ。
「恋人が居るってこんなに幸せなんだ・・。」
喜びを噛み締めているギィの姿にマシューは一抹の不安を感じていた。
エトルリアの貴族の娘とサカ出身の駆け出しの剣士。
二人の恋は身分違いのものだったのだから。

しばらくして、マシューはギィの事を人気のない林の中に呼び出した。
ギィは欠伸をしながら、マシューの後をついていった。
「何の用だよ。」
ギィは、落ち着かずそわそわしながら言った。
「それともあんたが用があるのはこいつか?」
そして、すばやく腰の剣を抜きさると構えて不敵に笑った。
「・・・・・・・…」
あたりはシーンと静まりかえり、一人で粋がっているギィを見て、マシューは口の端でぷっと笑った。
(ちくしょう、からかいやがって。)
ギィは悔しそうな顔をして剣を収めた。

「この戦いが終わったらプリシラとの事、どう考えている?」
「え、その話か?」
真顔で自分を問い詰めるマシューにギィは一瞬、戸惑った顔をしたが、
照れたように頭をかくと言った。

「まずは、プリシラのご両親に挨拶したいな。こそこそ付き合うのも気分悪いしな。
そして、順調に・・けっけっ結婚なんて・・事になったらいいなあ。」
「ふーん。」
「あっでも!これはあくまで俺だけがこうなったらいいなって考えている事だから。」
ギィは、耳まで真っ赤にして大げさに手を振った。
マシューは、作り笑いをしてギィに向き直ると、その肩にぽんっと手を置き爽やかに言った。
「あきらめろ、ギィ。」
「……」
ギィはごくりと唾をのんだ。

「プリシラがエトルリアのお嬢様で、俺がサカを飛び出した一剣士
だからか。俺の体に流れているサカの血がいけないのか。」
ギィもバカじゃない、どこかで本当はわかっていた。
自分とプリシラの間に立ちはだかっている壁の大きさを。

『俺と付き合ってくれ!』
想いを伝えたかった。ただ見ているだけじゃ切なくて、
言葉にしたかった。それで満足だろうと思っていた。
けれど、あの日、プリシラは、俺の目を見て微笑んで、受け止めてくれた。
きっぱり封じるつもりだった自分の心に火をつけてしまった。
プリシラの笑顔は俺のものに?側にいてもいいのか?
舞い上がった自分は、後先も考えず、ただ今があればそれでよかった。

「俺、現実見なさすぎ・・。」
ギィの心は不安や苦しみでいっぱいになり、目をぎゅっとつむった。
「そんな顔すんなよ。まあ別にお前達が一緒になる方法がないわけじゃないんだ。」
落ち込むギィに向かって、マシューは手の平の指を1本立てると切り出した。

「まず第一に、プリシラは家を無断で抜け出している家出少女だ。
カルレオン家に戻らず貴族の生活を捨てる方法もある。この際だ頼んでみたらどうだ?」
「そっそんな事、彼女に言えるわけがねえ!」
「まあ、貴族出の彼女に今日も明日も知れないお前のデカイ夢に
付き合わせるわけいかないよな。」
痛い所をつかれてギィは唸った。
「第二は、お前のその大事そうに抱えているやつを捨てる。」
「……。」
ギィは、腰の剣の鞘をさする、サカ一の剣士になるという夢。自分は、まだ未熟そのものだ。
プリシラに苦労をかける事になるのは目に見えている。
しかし、剣を捨てる事も出来やしない。
どんなに足掻いたとしても、自分はエトルリアの貴族にはなれないのだ。
誰にも負けないのは、プリシラを想う気持ちだけ・・
彼女の幸せを一番に考えるなら、答えは一つだった。

「あんたってさあ、本当、人が悪いんだか良いんだか食えない人だな。」
「これでも、お前の事、心配して言っているんだぜ。」
マシューも、本音は二人を応援したい気持ちでいっぱいだった。
「ちょっとだけ考えさせてくれ。」
ギィは、やっと一言搾り出すように言うと、林の中を駆け出した。
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