恋の代償

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  予感  

数日後  ギィはプリシラを近くの庭園に行こうと誘った。
久しぶりのデートだった。
ピンクのワンピースを着て、麦藁帽子をかぶったプリシラがこちらを振り返った時、
ギィの心はきゅんと音をたてた。
今が幸せならそれでいいじゃないか・・
ギィは、そう強く思い直すとプリシラの方へ駆け寄った。

澄みきった青い空、日差しは優しく、木々はさわさわと囁く。
庭園の美しい花々は、プリシラを虜にした。
「ギィさん、あのお花を見てください!」
「すげえ、こんなデカイ花あるんだ。」
普段な大人しい控えめなプリシラがはしゃいでギィの手を取り先導する。
花に囲まれたプリシラはまるで水を得た魚のように生き生きしていた。

「あんた、本当に花が好きなんだな。」
木陰で休息をとっている時にギィは言った。
「ええ、大好きです。
私の家もここよりはずっと小さいんですけど、薔薇の咲く庭園があるんですよ。」
プリシラの口から実家の事が出た時、ギィは苦しい気持ちになった。
「あのさ、家に帰りたいって思ったりする?」
「え?」
「帰って、養父母に謝りたいという気持ちはいつも持っています。」
プリシラは、困ったような少し悲しそうに眉をよせた。
「うん、そうした方がいいと思うよ。」
プリシラはそうですねと軽く微笑んだ。

「ずっと聞きたいって思ってたんだけどさ・・。」
「はい?何でしょう?」
ギィの言葉をプリシラは、真剣な面持ちで待った。
今まで知りたくても聞けなかった事、ギィは勇気を振り絞って口を開いた。
「俺を好きになってくれたわけを・・知りたい。」
プリシラは、一瞬驚き、そして頬を染めてうつむいた。
彼女の見せる純な仕草がギィはたまらなくかわいいと思う。
心臓をドキドキさせて今度はギィがプリシラの答えを待った。

「初めてギィさんを意識したのは、あなたが私の事を助けてくれた時です。
ずっと見ててくれて、私の危機を救ってくれたギィさんを頼もしく思いました。」
そう言うとプリシラの頬はさらに真っ赤に染まり、彼女は手で頬を押さえた。

「俺・・頼もしいなんて言われたの初めてっ。」
ギィも、嬉しさと緊張のあまり、声をうわずらせた。

「あの時、ギィさんの剣の動きがあまりにもキレイで、
こんなに美しい戦い方があるんだって感動しました。」
「ええ、そっそうか。」
ギィがまた驚きの声をあげると、プリシラは、こくんと頷いた。

「ギィさん、いつも謙遜しているけど、あなたの剣はすごいと思います・・
きっとサカ一の剣士になれると信じています。」
プリシラの真剣な顔に、ギィは言葉が詰まってしまった。
(彼女のためなら、夢をあきらめてもいい)
ここ数日、ギィの心に去来していた思いを見透かされたような気持ちになった。
「あんたが応援してくれるなら、俺がんばれる気がする。」
ギィは、にこっとプリシラに向かって笑うと、プリシラも目を細めて優しく微笑んだ。

夜、一人、稽古をしに外に出たギィは一心不乱に剣を振るった。闇の中を剣が風を切る音が響きわたる。
頬をつたう汗をぐいっと袖の裾でぬぐうと、荒々しく息をついた。
「ちくしょう…。」

プリシラの気持ちはどうなのだろう?
夢をあきらめるなと彼女は言ってくれたんだ。
何もかも考えずに彼女の手を取って飛び出せばずっと一緒に居られるかもしれない。
でも、踏み出す事が出来ない自分の弱さが小ささが悔しくて悔しくて仕方がない。
一寸先は何も見えない。何が起こるかもしれない。
自分と共にある事がプリシラを不幸にしてしまう気がして、たまらなく怖い・・。
「ちくしょう!ちくしょう!」

悔し涙を必死に堪えながら歯を食いばる。
胸がきゅーっと締め付けられるように、きしんで痛い。
「うっうっ・・」
嗚咽と共にこみあげてくる想い・・。
(心が痛いや…)
ギィは、瞳を閉じてプリシラの顔を想い浮かべた。
(ごめん、プリシラ、
今の俺じゃ・・駄目なんだ・・)

ぼやけた月の灯りが、ちっぽけなギィの姿を寂しく照らしていた。
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