恋の代償
エピローグ
あれから何年経っただろうか・・
プリシラは、幾度めの眠れない夜を迎えていた。
目を閉じてもまだ鮮明にあのリキア軍の戦いを、そしてギィの無邪気な顔が浮かんでくる。
自分は再び、豪奢ではあっても、この作り物の世界、作り物の箱の中に囚われてしまったのだ。
養父母は、あれから一度も責めもせず、優しくしてくれる。
しかし、ふさぎこんでしまった私を見ては悲しそうに目を細める。
縁談話もいくつか舞いこんで来ているが、理由をつけては断っていた。
寝返りを打って、薄目をあけると、目の前に突然、ぬっと人影が現れた。
「……」
プリシラは、暗闇に浮かぶ姿をただ目を見開いてじっと見た。
どこか懐かしさも感じるサカの民族衣装、長く垂れているぞんざいに編んだみつあみ。
顔にはまだやんちゃな面影のあるが、あの頃より一回りも
大きくなった精悍な眼差しをした青年だった。
「ギィさん!」
「しぃーっ、静かにして、バレる。」
ガバっと身を起こしたプリシラにギィは人差し指を立てて小声で言った。
慌てた表情は相変わらずだった。
「随分、遅くなってごめん、プリシラ。」
ギィは頭をかきながら申し訳なさそうな顔をした。
「実はまだ一番にはなってないし…。」
プリシラは、感激のあまり瞳からポロポロと涙をこぼしながら、首をふるふると振った。
「いいえ、ギィさんは、私の一番です。」
プリシラの言葉にギィは耳まで真っ赤になり、照れくさそうに手を差し出した。
カレルオン家の令嬢が一晩のうち、何者かに攫われたというショッキングなニュースが
エトルリアを駆け巡った。しかし、人の噂も長くは続かず、誰もが忘れ去った頃、
子供を抱いた令嬢が一人の青年と一緒にひっそり現れ、
屋敷の扉を叩いたという話が残っている。
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