パンドラズINホープ

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1章


就職難というのは、もちろん夢と冒険と剣と魔法が存在する世界にも存在している。
どんなに強くても頭が切れようと高難度の高速スペルを空で間違えずに唱える事が
出来たとしても、食べていくという事は大変だ。
国に勤めていた高管理職の役人が賞金稼ぎになってしまう事だってよくあることだ。
私ことリーベル=マクガイアも仕事探しのまっただ中で
毎日が胃が痛くて仕方がなかった。
だって学園ではずっと本ばっかり読んでたし、メガネはずり落ちそうだし
勉強するのは好きでも実践はバツマークばかりもらってた私
肩までの茶色の髪はリボンで結わえ、顔は幼いと皆にバカにされて
小柄で頼りないと言われつづけた私。

早く何でもいいから仕事を見つけないと焦って入った冒険パブの求人票にあった
あの仕事、まさか、私がこんな事になるなんて あのメンバーの中に入れるなんて、
憧れのあの人の傍にいられるなんて思いもしなかったもの。
ああ、どうすればいいの
フェルナンデス・アルベルト率いるチームに就職出来るなんて信じられない
ときめきと恐怖と絶望とドキドキが交差する扉を開く事になるなんて知らなかった。

正直、あの時に戻りたい


普段は別々に暮らしているチーム・フェルナンデスだけど
仕事がある時には集まって行う事になっている。
私はもう何回か集まりには参加しているけど、未だにメンバーからは歓迎されている
空気が全く感じられないのだ。
この日も私が約束の酒場に入っていくと挨拶とは思えない言葉が頭から降ってきた。
「よぉ、嬢ちゃん 今日は遅刻しなかったのか」
「リーベル=マクガイアです」
私の教育係りになったヒッツルスベルガー・ハッカマンさん、
いつも重そうな何トンもあるハンマーを持ち歩き、
ツンツンと茶色の髪をたてて、目つきは吊り目の三白眼気味、いつも挑戦的な表情をしている。
笑うと懐っこい顔にはなるみたいだけど、まだ一度も私はその顔を見たことない
迷惑そうな私をお荷物としか見ていないような目をする
実際、ペーペーな新人なので何も言えないけど。

「ハッカマンさん おはようございます!」
「一応、お前の指導係なんだぞ、ヒッツでいい」
「いいえ、ハッカマンさんでいいです」
「お前は本当めんどくさい奴だな」
頭をかきながらそう言うハッカマンさんの後ろからこれまた生意気そうな
高いソプラノボイスが聞こえた。

「父ちゃん、彼女をいじめるのもほどほどにしないと」
声の主はまだほんの12歳ほどの少年、しかし私より年下のこの子までも
「前の人みたいにすぐ辞めちゃうよ」
からかうようにニヤリと微笑んだ。
「ソラ」
この子に向けるハッカマンさんの表情は私のと違って優しい
でも本当の親子ではないらしい、どこかの火事場でハッカマンさんが拾ってきて
養子にして育てているとか。

私の前任の人が辞めた理由はわからないけど、きっと彼が関係しているに違いない。
その人がすぐ辞めてしまったおかげで例の求人が残っていたのだから。

「何でもいいから仕事と言われてもねー」
酒場のマスターは困ったように顎をしゃくった。
「お嬢ちゃん、本当に学校を卒業したのかい」
「しましたよ、私、もう15歳です、ちゃんと証書もありますから、
あとこちらはヒーラー認定章です。まだレベル3ですが…」
「ヒーラーってあれだろ、ホワイトスペルを使えたりするの?体を治したりとか」
「はい!他にも色々と出来ますよ」
「しかしお嬢ちゃん、弱そうだからね、剣術は出来るの?」
思わず黙ってしまった、剣術はクラスの中でも最低だったから
マスターはやっぱりねと苦笑した。
でもここで負けるわけにいかない、何としても仕事を手に入れないといけないから。

その時、カランと酒場の扉が開く音がしてどこかの集団が入ってきた。
周り空気が一瞬で変わる、皆がその人達の方を見て釘づけになる、私も だって…。
彼らは「チーム=フェルナン」フェルナンデス=アルベルトが率いる軍団だった。
白と黒のスペルを自在に使いこなすスペルエンペラー、フェルナン
リーダーである彼の名前を知らない者はいない。

白い装束、端整な顔立ち、憂いを含んだ瞳、金髪のさらりとした短髪、すらりとした体躯
凛と澄みきった魔法力、
まるで絵に描いたような姿に女性が黙っているわけもなく
あまりの人気にアイドル化し、フェルナン以外にも固定のファンがつくフィーバーぶり
ファンクラブもあるほどの騒がれようだった。
学校でも何かと噂になっていたチームなの、
私もこれほど近くで見るのは初めてだった、学術誌の写真で見るのと違う迫力に
思わず心臓がドキドキ、口ぱくぱく 顔が真っ赤にほてるし
どうしていいかわからなかった。
(本物だ!本物だ!)

フェルナンさんの後から続く体躯のいい人達にも周りの人達から黄色い声を
あがっていた。
今考えればこの中にハッカマンさんもソラ君も居たのだけど
私はもう舞い上がってて周りが見えない状態だった。

「お嬢ちゃん 大丈夫」
私はこくこくとうなずいた。
「フェルナンデスのファンかい?」
私はさらにこくこくとうなずいた。

「じゃあ聞くけど、お嬢ちゃんさ、
リターンの魔法を使えるかい?」

リターン!!!
私は少し正気に戻り、大きく目を見開いた。
この魔法は卒業魔法論の題材として私が取り上げていたものだった。
長い事、暗礁し続けてきた術式なので唱える事は出来る。
けれど…

「一応使えます」
途端にマスターの顔がぱぁっと輝いた。
「それならいい仕事があるんだよ、経験不問で必要なのはリターンの魔法のみ」
「リターンの魔法のみ?」

「どうだい?そこに居る チーム=フェルナンの依頼なんだけどさ」
マスターはニヤニヤした顔で私の方を見た。
「おい!フェルナンデス!例の仕事を受ける人間見つけたぞ」

マスターに呼ばれて振り返ったフェルナンさんと目があった。
そこから仕事を請けた事以外は記憶はなくなってしまった。


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