恋の代償

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  予感  

少しずつ少しずつ・・
準備が始まった。
それは静かに近づいてきた。
ギィの決断はプリシラも気づいていた。
そして彼の意志に従う事も彼女は決めていた。

ギィはカレルとの剣の稽古に精を出すようになっていた。
申し訳なさそうに自分を見る瞳に、プリシラは何も言う事も出来ずに
気にしないでと微笑んだ。

「プリシラさん。」
名前を呼ばれて正気に戻ったプリシラが頭をあげるとマリナスが居た。
プリシラは、ライブの杖を受け取りに来た事を思い出し慌てた。
「あの坊主と何かあったのじゃな。」
「え?」

「ほら、以前、わしに名前を聞いたじゃろう。ギィのことだよ。」

マリナスは自分とギィがお付き合いしている事を知っているのだろうか、
プリシラは照れて、ちらっとマリナスの目をうかがった。
マリナスは、目を細めた。

「こうして物資を運んでいると色々と見えてくるんじゃよ。
あの坊主はいっつもあんたの事を気にして戦っていたじゃろう。」
プリシラもこくんとうなずいた。

マリナスは、プリシラにライブの杖を渡しながら言った。
「もう一人、あっちであんたのことを気にしている人間がいるようじゃぞ。」
マリナスの見ている方を振り返ると、レィヴァンがプリシラの方へと大股で歩いて向かってきた。
「兄様・・。」

「プリシラ、ちょっと顔かしてくれ。」
レィヴァンは不機嫌そうな顔をしていた。
自分に着いて来るように先に立って歩きだしたレィヴァンの後を
プリシラはライブの杖を抱えたまま追った。

レィヴァンは腕を組んでプリシラの顔を見もしないで話を切り出した。
「俺がこんな事を言う資格はないかもしれない。
お前達の事は干渉するつもりはないし、お前が誰とどう付き合おうが構わない。」
「レィモンド兄様・・。」
「ただ・・
あいつがお前を泣かす場合は別だ。」
「!」
レィヴァンは、プリシラの方を振り向いた。
兄の言葉に、プリシラは耐え切れなくなくなり声を震わせた。
「違うんです。ギィさんは悪くないのです。」
ずっと我慢していたのに、目の前が涙で曇っていく。プリシラは、ライブの杖をぎゅっと握った。

「泣いているじゃないか。」
「泣いてませんっ。」
プリシラは、首をぶんぶん振って必死に否定した。

「ギィさんが、私の事を想って選んだ事なんです!
でも、あの人は、まだ私の事見ててくれます。
あの時と同じ眼差しで、まだ見守ってくれているんです。」
プリシラは彼の気配を感じることが出来た。
それは、初めて視線に気づいた時と変わりはしなかった。
「私は・・それで十分です。」

「プリシラ、何もかも自分の中で背負い込むのは辞めろ。」
「はい・・。」

「私の事、心配してくれてありがとうございます。」
プリシラは、兄の不器用な優しさが嬉しかった。
レィヴァンは、プリシラを見てふっと笑った。
兄はいつも側に居てくれる人がいる。間違いを犯した時に止めてくれ、
いつでも喜びも悲しみも分け合ってくれる人が。
ギィを支え絆を結びあいたいけれど、エトルリアの地に縛りつけることも、
自分が共にあり続ける事も、ギィの枷になってしまう気がして不安だった。

夢を追う事を選ぶのなら、自分がこの手から飛びたたせてあげる事が
今、彼のためにするべき事なのだ。
ギィがこの手の平の中に舞い戻る事はないのかもしれない。
けれど、今は、背中を押してあげたい。
(それが私の願い。)
プリシラは、頬に零れ落ちた涙をぐいっとぬぐった。

「結局、俺、彼女の事、傷つけちゃっているよな。」
ギィは呻きながら頭を抱えこんだ。
「決めたんだろ。」
「ああ。」
マシューの言葉にギィは力なく返事した。
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